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Interview

技術者倫理=ウェルビーイング? ②

2023.12.4

前回に続き、札野教授のお話です。
今回は「倫理」についてより深く語っていただきました。

予防倫理と志向倫理

倫理にはふたつの局面があると札野教授。「事故を起こさない」「不祥事を起こさない」など、「やってはならないこと」をやらないための予防倫理と「どうすればよく生きられるか」を考える志向倫理だ。

両者の違いをまとめると下記の表のようになる。考え方が真逆のようにも見えるが「両方がそろってはじめて倫理」だそう。

札野教授作成の資料より

前話のような経緯で作られた技術者の倫理綱領は「予防倫理」が多かった。しかし、予防倫理にはネガティブな側面がある。そもそも捏造、改ざんと行った不正を働く人はほんの一握りしかいない。そんな人たちを悪事に走らせないための予防倫理を、大半の善良な人たちがいちいち聞くのはどうなんだという考えも生まれてしまうのだ。

一方、志向倫理は「さらによい行動、よりよい社会を創っていくための倫理」のため、多くの人々のやる気を生み、結果的にパフォーマンスを上げることができる。「モチベーションもあげることができるのです」。

先の比較表を書き換えると下記のようになる。

札野教授作成の資料より

札野教授は「技術者倫理も志向倫理を取り入れた形にバージョンアップするべき」と語る。

幸せだから成功する

技術者の倫理綱領や行動規範の多くには「福利」「福祉」といった言葉があるという。

技術者倫理の基本原則
エンジニアは、その専門職能上の職務を遂行するにあたり、公衆の安全、健康、福利を最優先しなければならない。

日本学術会議「科学者の行動規範」
科学者は、自らが生み出す専門知識や技術の質を担保する責任を有し、さらに自らの専門知識、技術、経験を活かして、人類の健康と福祉、社会の安全と安寧、そして地球環境の持続性に貢献するという責任を有する。

福利・福祉とは英語では「Well-being(ウェルビーイング)」。政府の骨太の方針などにも記載されるようになった言葉で「持続的幸福」や「幸せ」と訳されることが多い。札野教授は「よりよく生きること」が一番しっくりくるという。WHOによるとウェルビーイングとは「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること」とされているが、実はまだ誰もが認める「絶対的な答えはない」と札野教授。理論が乱立している状態なのだという。

一方でウェルビーイングに関する科学的な研究は急速に発展している。研究結果を端的にあらわすと「成功するから幸せになるのではない。幸せだから成功するのだ。」になるのだそう。

ウェルビーイングを基軸に

ある研究では、約700人の被験者による実験の結果、「幸せ」な人の生産性はそうではない人より12%高いことがわかっている。またある研究では「金銭に関わらない仕事の満足度は、仕事の質及び全般と正の相関がある」ことがわかった。

そのためか、ウェルビーイングを基軸とした経営も広がりを見せている。Googleをはじめ、Zappos(ザッポス*)といった企業が積極的に取り入れている。

*ぜひ検索してその取り組みについて知ってほしい。

教育の現場でもウェルビーイングが基軸になり始めている。「ポジティブエデュケーション」は成果があるという研究も進んでおり、札野教授も広めていきたいと語る。

「SDGsの次に来るのはウェルビーイングですよ」と笑う札野教授。
倫理とウェルビーイングは会社のあり方を考える上でも、しっかり学んでおきたい知識のひとつだ。

INFO

早稲田大学 大学総合研究センター 教授
札野順(ふだのじゅん)