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Interview

医学を基礎としたまちづくり

2023.10.16

毎年受ける健康診断。その時期だけ禁酒や、ウォーキングをして「万全の体制」で臨んでいる方も多いのでは?また、ご家族の様子が少しいつもと違っても「疲れているんだろう」と放置していませんか?

今回はそうした人の心のバイアスを一切排除したシステムで、街全体の健康寿命を伸ばすための研究をご紹介します。この研究を行っているのは、奈良県立医科大学発のベンチャーMBTリンク株式会社を率いる梅田智広氏です。

本当の健康状態を知る

冒頭の例のように、家族はおろか自分の「本当の」健康状態をご存知ない方も多いのではないだろうか。

医学の世界では未病を防ぐことが重要だと言われているが、そのためには普段から「正しい」健康状態を知り、それに基づいた行動をする必要がある。年に一度の検診も準備万端で受診しているようでは、入り口にすら立てていないことになる。

Apple Watchなどのバイオセンサーで健康状態を把握できている、という方もいると思うがその数はまだまだ少ない。2021年度の統計でスマートウォッチの販売台数は343.2万台で、全人口の2割にも達していない。

バイオセンサーを長く使い続けられる人は少ないという実験結果もある。梅田氏によるとウエアラブルセンサーを使った実証実験を行っても「1年後にはほとんどの方が外してしまう」のだとか。バイオセンサーをオリジナルで開発し、外されない工夫にも取り組んでいる。

ブレスレット型、指輪型のウエアラブルセンサー

配電盤で認知症がわかる!?

もうひとつ、梅田氏が提唱しているのが「ライフマーカー」の活用だ。ライフマーカーは生活習慣を可視化するデータとでも言うもの。生体の情報を取得する「バイオマーカー」に対する言葉として梅田氏が造った言葉だ。

梅田氏が各地で行っている実証実験では、各家庭の配電盤に取り付けた電力センサーがこのデータを取得している。バイオマーカーと違い、本人が意識しなくても取得が可能なことが特長だ。

配電盤に取り付けられたセンサーとその結果を表示するタブレット

電力センサーが取得した電流波形をAIが分析すると、今現在どの電気機器が稼働しているかがわかるのだという。
これはどのメーカーの家電でも、「同じ種類のものなら波形がほぼ同じ」という特性を利用したもの。炊飯器ならどこのメーカーでも同じ波形、冷蔵庫やエアコンも同様の特性があるという。「もちろん新しい技術を搭載した機器が出たら、AIに覚え込ませる作業はし続けています」と担当者。

これまでポットなど家電単体でこうした見守りができるものが発売されているが、家中の家電の動向を把握できるものはそう多くない。このデータを蓄積し、何時にどの機器が動いたか、それは過去のデータと比較してどうなのかを分析することで生活状態を把握することができるという。

梅田氏が行った実証実験では、この数値を把握することで「認知症の予兆」を掴むこともできているという。「家族はまだ大丈夫だと思いがちですが、数字は事実をありのままに伝えてくれます」。

行動変容促すプラスアルファ

しかしこうして正しい健康状態が取得できていたとしても、「その結果をもとに運動をする、食生活を変えるなどの行動ができ、かつ続けられる人は多くない」と梅田氏。

そこで次に取り組んでいるのがプラスアルファの情報提供。取得したデータを地図やその日の気象情報とあわせることで、その地域向けの情報提供を目指す。「熱中症に注意」などの情報を「その時」「必要な人」にピンポイントで届けることができる。

バイオセンサーで位置情報も取得することで、いつどこで、どのような気象状況のときにどんな体調だったのかを測り、治療やリハビリに活かす。疾病やその時の体調、季節などに応じたレシピや食事の提供も視野に入れている。

最適化メニュー提供のイメージ

街全体の健康寿命をのばす

梅田氏はこの仕組みを地域全体で取り入れることが重要だと語る。「タバコを吸う人が肺ガンになるのは自業自得という自己責任論もあると思います。でも、今の健康保険の制度は、ごく簡単に言うと健康な人が不健康な人を支えるもの。さらに患者全体の20%の重症患者が医療費の70%を使っているのです。結果、割を食うのは健康な人です」。

そのため「みんなで」健康になろうとすることが需要だという。梅田氏は各地の地方自治体と連携し実証実験をおこなっており、街全体ひいては国全体の健康寿命を伸ばすことを目指している。

奈良医大が提唱する「MBT(Medicine-Based Town)・医学を基礎とするまちづくり」構想の実現、そして社会実装が梅田氏とMBTリンク社のミッションだ。今後の展開に注目だ。

COMPANY INFO

MBTリンク株式会社
〒634-0813 奈良県橿原市四条町840 番地 奈良県立医科大学MBT研究所内