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Interview

教育現場のICT㊤「コロナ禍の授業とタブレット」

2021.11.1

文部科学省が推進するGIGAスクール構想。2019年に打ち出されたこの構想は「児童生徒向けの1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備。多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む学びに寄与する」ことを目的としている。

全国の小中学校にタブレット端末が配布され、本格的に活用をはじめようとした矢先に「新型コロナウイルス感染症」の蔓延。実際の教育現場はどうだったのか、某政令指定都市の公立中学校で社会科を教える先生にお話を伺った(このコラムはあくまでも一中学校の事例であり、すべての学校の状況をまとめたものではありません)。

コロナ禍での授業

―御校の授業は現在(※1)どのように行っていますか。

今は基本的には全員登校しています。新型コロナに感染した生徒が出たクラスのみ、接触状況等に応じて学級閉鎖をしています。
昨年度、分散登校もトライしましたが本年度は行っていません。「同じ授業を2回行う」ことは教師にとって想像以上の負荷だったと思います。

―先生の学校でも、1人1台環境は実現できていますか。

はい。一昨年には生徒全員に配布されました。
本校にはIBM製のタブレットが導入されています。市内の特別支援学校では「障がいがあっても使いやすい」などの理由からiPadが導入されているそうです。

コロナ前は各教室にタブレットの充電器を生徒数分用意。電力不足で同時に40台の充電ができないため、夜間に分散して充電するようにしていました。現在は充電器ごと自宅に持ち帰らせ、充電して持ってくるように指導していますが、忘れる子もいて苦労しています。

理想と現実の差を感じる日々

―タブレットはどのように使われていますか。

今は「補助教材」としてしか使えていません。タブレットドリルなどを使う程度です。「SKYMENU(※2)」を使ってドリル配信や、結果の集約を行っています。 また「Teams(※3)」を使ってワークを配信したりもしていますが、いつの間にかワークが生徒たちに書き換えられていて、ぐちゃぐちゃになることもしばしばです。そのためワークを配布するときは「最初に自分の端末にダウンロードする」ことを徹底しています。

―コロナ禍のオンライン授業などには使わなかったのですか。

はい。使っていません。
理由のひとつはサーバーのスペックが追いついていないことです。全校生徒約450名が同時にTeamsにアクセスすると、アクセス集中でアプリケーションを立ち上げることすらできません。
市内には相当数の中学校があります。すべてが同時アクセスすると何もできません。現在は区ごとに利用できる時間を区切って、アクセス過多を防いでいます。

webカメラの不足もあります。本校には全学年で12クラスありますがカメラはたったの3台しかありません。今のところ追加される予定もないそうです。

―オンライン授業を行っていないのというのは驚きです。

そうですね。ただ、コロナ感染を恐れて自主的に登校しない生徒の「個別授業」には使っています。教師が空き時間に撮影した動画を配信したり、Teamsで朝夕の挨拶をしたりしています。
残念ながら私たちに余力がないため「コロナで自主的に休んでいる、かつ親御さんから要望があった生徒」のみの対応になっています。不登校の生徒の対応なども、本当は考えていきたいところなのですが。

―個別授業では授業をリアルタイムで配信しているのですか。

いいえ。本校ではプライバシーに配慮してリアルタイム配信は行わないことにしています。
授業中の生徒たちの姿が写ってしまう可能性がありますし、生徒の発言も配信されてしまいます。授業風景が録画されて配信されてしまうのでは、という懸念がありましたので。リアルタイム配信に否定的な親御さんの意見もありましたし。

授業の録画も教師が工夫して行っています。おかげでICT機器の使い方を知っている先生の仕事がどんどん増えてしまっています。

―学校にGIGAスクール構想実現のための専門の方はいるのですよね。

はい。ただ、その方は複数の学校を担当されているので、本校に来ていただけるのは月に2回程度です。先生方も手一杯ですので、もう少し来校してもらえる回数を増やしてもらえるとありがたいなと思っています。
本当はもっと端末を活用したいし、オンライン授業も充実させたい。でも、ハードも足りていませんし通信環境も不十分、教師のキャパも限界です。「理想と現実の差」を日々感じています。
(続く)

※1:取材時の2021年10月初旬現在
※2:Sky株式会社が提供する教育機関向けクラウドサービス
※3:Microsoft社が提供するWeb会議アプリケーション

HIGHLIGHT

児童生徒ひとりひとりに配布されたタブレット端末。現場の教師たちはまだまた使い切れていないと感じている。