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Interview

事業再生士の仕事

2021.10.18

「事業再生士」という仕事をご存知だろうか。「企業再生請負人」「ターンアラウンドマネージャー(会社の方向転換を指揮する人)」とも呼ばれることもある職業だ。 新型コロナウイルス関連倒産は全国で2171件。今後さらに増えると予想されている今「重要な仕事ではないだろうか」そう思い、お話を伺った。

本業以外での失敗と人まかせ

事業再生士のもとを訪ねる経営者は「藁にもすがる思い」でやって来る方が多いという。 「万策尽きた」と億単位の負債を抱えて訪ねてくる。

負債を抱える事になった理由を聞くと「本業以外で失敗した方」が意外と多いという。 金融機関等のすすめでよくわからないまま「借金」し、そのお金で「よくわからない不動産」を購入。結果、不動産を活用することができずに「塩漬け」状態に。
借りなくても良かった借金と、払わなくても良かった金利が資金繰りを悪化させ、次第に本業への影響もではじめる。 資金が底をつき、なけなしのお金を払って弁護士を雇うも状況は好転せず。さらに負債を増やした状態で「事業再生士」の元を訪れる。

また、社長自身で「解決しようとしない」「矢面に立たない」方も多いそう。銀行との交渉は経理まかせ、社会保険は労務担当まかせで、自ら動くことをしない。

だが金融機関も税務署も「社長がどう考えるか」を必ず聞いてくる。「事業再生の最初の一歩が『社長に現状を理解してもらい、自ら動いていただくこと』であることが少なくない」と語る。

友人の会社を救うために

この仕事に関わった経緯をきくと「友人の会社を救いたかった」とのこと。自身も関わっていたその会社は、大手外資系企業の突然の事業撤退で大きな負債を抱えることとなった。

当時、「大手外資系企業の新しい仕事をする」というだけで「あちこちから融資の話があった」という。広いオフィスを借り、人を手配し、投資をしたところでの「撤退」は多額の借金だけを残す結果になった。

なんとかして会社を存続させようと、様々なことを調べ、手を動かし、あちこちを訪れ調整した。最後に「企業再生士」の元を訪れたときには「よくここまでやりましたね。私たちでもできることはもうありません」と言われた。

そして「ここまでできるのなら、私たちを手伝ってもらえませんか」と提案され、この業界に飛び込むことになったという。

着地点を探す

事業再生の具体策は様々だという。一社一社業績も、状況も、社長の思いも違う。企業の中に入り込み、深く理解した上で「最善を尽くす」のだという。

「再生の具体策は例えばどんなことを?」とさらに聞くと「すべてではないですし、状況次第ですけど」と前置きした上でこう話してくれた。

まずは状況を把握すること。債務があることを社長が認めること。その上で「どうしたいか」を考えてもらうこと。「社長が腹をくくらないとなにも始まらない」。

会社を船に例えるなら、船を小さくしてでも船を持っていたいのか、船を売ってしまっても良いのかを考えていただく。相談に来る社長の中には状況を認めず「大きな船のまま保持したい」と甘い考えを持つ方もいるという。

船を小さくしてでも残したいという結論に達したら「出費を抑える策を考え」、「保険や不動産など売れるものを売る」。さらにうまくいっている事業のみを残す「会社分割を検討」する。

サービサー(※)との粘り強い交渉も必要だという。どんなに時間がかかっても「借金を返す」姿勢を見せ、実行していく。

事業再生士のお世話にならないためにすることを聞くと「変に借金をしないこと」。 金融機関は時にひびきの良い「甘い言葉」で借金をすすめることがあるという。

損益計算書や貸借対照表をしっかり確認し「本当に必要な借金」だけをすること。本業以外の投資、それにともなう借金はさらに慎重になること。

再生後もお手伝い

今でも毎月のように訪問しお手伝いしている企業は、会社分割に成功し「事業再生」に成功した。 すでに10年を越えるお付き合いだという。事業再生にとどまらず、新規事業などの相談も受けているという。

「社長は孤独であることも多く、心の内や思いを聞いて差し上げるのも私たちの役目だと思います。」新しい船出ができた企業が「今でも頼りにしてくださり、新規事業をはじめさまざまなことを相談してくれることは再生士冥利に尽きる」という。
事業再生士という仕事の奥深さを垣間見た気がした。

※金融機関等から委託を受けまたは譲り受けて、特定金銭債権の管理回収を行う法務大臣の許可を得た民間の債権管理回収専門業者

HIGHLIGHT

事業再生士の仕事は事業を再生するだけではなく、社長の良き相談相手として寄り添うこと。