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Interview

歴史的建造物でリモートワーク!?川越市のチャレンジ

2021.2.22

埼玉県の北西部に位置する川越市は「小江戸(こえど)」と呼ばれる情緒あふれる街並みで有名だ。江戸時代に城下町として栄えた都市で、蔵造りと呼ばれる古い土蔵や商家が立ち並ぶ。この景色を楽しむために毎年多くの観光客が訪れる。
この街でなぜか「ワーキングスペース」の実証実験を行っていると聞き、取材してきた。

仕事がはかどるスペース

訪れたのは実証実験に参加している「小島家住宅」。川越駅から徒歩10分足らずというアクセスの良い場所ながら、小江戸ならではの街並みの中にある。

ワーキングスペースのある建物

この建物は川越市が定める「景観重要建造物」に指定されている。明治34年に建築され、高度経済成長期には当時流行りの景観に改装されたこともあるものの、現在は建築当時の姿に復原されている。

この建物が「ワーキングスペース」だ。

中に入ると1階には7席ほどのワークスペースがある。新型コロナ対策もあり、1席ずつ間隔をとったレイアウトになっている。

建具類は歴史を感じる重厚な作り。手を触れるのもはばかられるような箱階段や、蔵ならではの観音扉、見上げれば立派な梁がある。

箱階段
立派な梁

箱階段の先には16畳ほどの和室、また別棟の2階にも6名ほどが利用できるワークスペースがある。

2階のワーキングスペース

ワークスペースならではの設備も完備。冷暖房、Wi-Fi、テーブルごとのACタップ、部屋の片隅には大型モニターも設置されている。

オフィスの会議室にはない「あたたかさ」と「居心地の良さ」で、集中して仕事をしたいときに使いたいスペースになっている。

文化財・重要建造物が消えていく

なぜ、川越市が歴史的建造物でワーキングスペースを作ったのか。
それは「歴史的建造物を守るため」だ。

川越市には国指定文化財、市指定文化財など守るべき建造物が数多くあり、そのほとんどが個人所有だ。これまでも市では補助金などを交付することで、これらを保存しようと努力をしてきた。

しかし、こうした建物にかかる維持管理費は通常の建築物の比ではない。「維持費が賄えない」と建物を取り壊してしまう市民も複数いたという。

歴史的建造物を守るためには「資金」が必要。であれば、歴史的建造物でその「資金」を作り出そうというのが今回行われたプロジェクト「歴史的建造物再生・利活用マネジメントサイクル構築」の骨子だ。
建造物を利活用したいという事業者を募り、物件の所有者が賃貸する。事業者は賃貸した物件で店舗等を運営し利益を上げる。所有者は賃貸料を資金に物件の保全に努める。

プロジェクトの発足当時はカフェや宿泊施設などを想定していた。しかし新型コロナウィルスの蔓延があったことで「新たな生活様式」に対応したモデルも必要になってきた。
そこで行われたのが今回の実証実験。テレワークが一般化した今だからこその利用方法だ。

保存・活用を続けるために

現在は期間限定(2021年2月末まで)の実証実験の段階で、川越市が主体となって行っている。運営はNECキャピタルソリューション株式会社、モニターとしてリコージャパンも参画している。今後はこれを民間の力をメインに回していけるようにすることが目標だ。

この実証実験の結果も踏まえ、市では新たな民間組織の立ち上げも検討していく。ゆくゆくは「川越市の歴史的建造物の保存・活用を管理」する専門組織に育っていくことも想定している。
ここでは建造物の保存するために必要な事業者をマッチングしていく。例えば「物件を利用したい事業者と所有者」、「所有者と改修費用を貸し出す地域金融機関」などだ。将来的には県外ファンド、クラウドファンディングの活用なども視野に入れている。

この活動は新しい取り組みとしてメディアも注目している。NHK(おはよう日本)や日本経済新聞社をはじめ多くのメディアに取り上げられた。

歴史的建造物が立ち並ぶ姿が特徴の川越市だが、その美しさが隠されてしまっている建物がまだある。また、歴史的建造物を公共施設として保存することには限界がある。
街並み保全を官民一体となって行うこのプロジェクトは、今後各地に浸透していくかもしれない。

INFO

川越市都市計画部都市景観課
〒350-8601
埼玉県川越市元町1丁目3番地1
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