ここは群馬県。ただただ広がる関東平野をふちどる山々のふもとです。
JR高崎駅から上信電鉄に乗り換え、西へ約30分、上州富岡へ。
線路の両側には青い田んぼが広がります。かつては製糸業でにぎわった地域も今は静か。明治5(1872)年、日本の近代化のために設置された「富岡製糸場」をまず訪ねました。
というのも、上信電鉄が「富岡製糸場入場券付き往復割引切符」を発売していたから。復路に1回だけ途中下車できると知り、帰りに酒蔵を訪問することに。
旧富岡製糸場は、養蚕、豊富な水、石炭、広々とした土地など好条件が揃ったこの地が選ばれ政府の肝いりで誕生し、会社を変えながら昭和62(1987)年まで稼動しました。歴史を感じる建物をガイドさんの案内で見学。日本近代化の黎明期に思いをはせます。
見学後近くの食堂でのお昼ご飯は「地元名物おっきりこみ」に。メニューを見ると、「日本酒:聖徳(せいとく)」と、これから訪ねる酒蔵さんの名前が! 地元で愛されるお酒に期待が高まります。
上州富岡から上州新屋までは、1000形(桃源堂号)で。
ちょうど「第7回絵手紙列車」が開催されていて、温かみのある絵を楽しみながらの移動です。
上州新屋駅は無人駅。こぢんまりとした駅舎を後に、徒歩約20分、聖徳銘醸さんをお訪ねしました。
聖徳銘醸は、近隣の3つの酒蔵が昭和34年に合併してできた蔵。群馬県でも屈指の大きな酒蔵です。
案内してくださったのはこの道30年の工場長さん。かつては越後杜氏を招聘していましたが、現在はその伝統を受け継ぐ地元の杜氏が仕込みます。
「このあたりは冬は乾燥するため雑菌が少なく、適度に寒い酒造りにふさわしい場所なんですよ」と工場長さん。麹を仕込む大きな機械や、ずらりと並ぶタンクに圧倒されました。「機械を使いながらも、要所要所は人の目、人の手で仕込み、『手づくり』の味を重視しています。吟醸酒などは、お米をとぐところからすべて手づくりなんですよ」。
高級な吟醸酒は今では珍しい蓋麹法(ふたこうじほう)という方法で造っています。麹菌の活動が盛んになると、小さな箱に少量ずつ米を小分けにして行き、箱を積み重ねて管理。この小さな箱を「麹蓋(こうじぶた)」と呼びます。手間のかかる製法のため、仕込みのときは、夜、寝ずに様子を見るとか。
「佳境を迎える1月は月の大半が泊まり込みになりますね」。
工場長さんは、「目指しているのは、旨みがふくらんだ柔らかいお酒。毎日飲みたくなるお酒ですね」と言います。
「日本酒というのは、材料の善し悪しだけでなく、人の手をどれだけかけるかでできあがりが変わるお酒です。お米の出来も毎年違いますし、気候も違う。そんな条件の中で目指すお酒を造るのは、やりがいのある仕事ですよ」。
この日試飲させていただいたのは、「大吟原酒」「鳳凰聖徳吟醸酒」「純米吟醸鳳凰聖徳」「特別純米酒鳳凰聖徳」「特別本醸造妙義山」「辛口樽酒」の6種類。それぞれに香り、味わいが異なり、日本酒の奥深さを感じました。
中でも「純米吟醸鳳凰聖徳」は、「Ozumo(大相撲)」という銘柄でアメリカに輸出されています。
また、群馬県で栽培された酒造好適米「舞風」を使ったお酒「純米吟醸原酒」も造っています。
2008年10月から2012年9月まで上信電鉄では、松本零士原作「銀河鉄道999」のキャラクターをあしらったラッピング電車が運行しました。それに合わせて「銀河鉄道999」のラベルのお酒も造ったそうです。
上信電鉄沿線には、織田信長の次男信雄(のぶかつ)が住んでいた武家屋敷や町並みが保存されている城下町小幡という名所もあります。聖徳銘醸ではその名を冠した「城下町小幡」というお酒も造っています。
8月には花火大会も行われるとか。観光を兼ねて、酒蔵巡りを楽しんではいかがでしょうか?